現代アフリカとアジアのイスラーム研究の新展開
「昼下がりにクルアーンを学ぶ女性たち」(20171218清水撮影)
本プロジェクト代表の清水貴夫が「現代西アフリカにおけるライシテと宗教性の連続性の文化人類学的研究」(文科省科学研究費、基盤(B)21H00651)に採択されました。本年度より、2024年度までの4年間に渡り、西アフリカを中心に、現代の宗教(特にイスラーム)と政治、そして、人びとの生活における宗教のあり方を探ります。
この科研プロジェクトには、本センターのサコ、和崎、阿毛も参加しています。本センターを一つのプラットフォームとし、国際的な研究展開を視野に入れて発展させていけるようにしたいと考えています。
研究概要(科研費申請書・「研究概要」より
フランス人類学・思想に頻出するフランス流ライシテ概念を批判し、アフリカに適応でき る文化宗教現実や中間集団を抽出し、普遍的な福利の効く社会形成を問うことを本研究の目的とする。ライシテ概念とは、共和政体としてのフランス近代国家の成立を裏付けた、宗教性から自律した世俗性である。フランス社会の民衆の自律を問うには、中世以来の宗教権力からの自由が、第一義的に保証されなければならなかった。自律した個人が国家政体を支える出発点となり、社会形成の一大前提となった。すなわち、ライシテは国民国家としてのフランス共和国の成立の基盤にある。旧フランス領アフリカは、独立に際してその理念を引き継ぐが、社会形成の上で有効な社会理念となって整合しているとは言い難い。宗教、特にイスラームの宗教実践は個人の私的領域に限定されず、時に国家政策において教育や社会福祉などの多様な領域で国家に代わって働く。このような個人と国家とイスラームの関係性、そして「ライシテ―宗教性」連続体の動態と理念を解く必要がある。私的領域を越えてイスラームが担う社会救済性は、欧米、東アジアとは異なり、大小多様で伸縮自在性を有する社会集合性や共同性の社会力を有し、人々の福利厚生ではむしろイスラームとの関連で意味を持つ。イスラームの集合社会性が、ライシテとの関連のなかで多様な聖俗遷移の集合性を示して、私たち北側経済既発展地域の日本やヨーロッパができない社会救済性を、宗教的のみならず経済的にも実現している。 そこで、本研究では、西中部アフリカの国家と個人を二極化せず、社会集合性や共同性を濃淡として捉え「ライシテ―宗教性」の連続体を析出・分析し、現代社会の新たなモデルとして提示し、個人と宗教の関係性が再び問われている現在社会の在り様を考察する。