ミャンマーの今を考える
ミャンマーの今を考える
―ミャンマーとクーデターの現状分析 開催報告
言語:日本語
参加方法:本イベントはオンライン会議システム「Zoom」で開催(無料・要申込)
主催:京都精華大学アフリカ・アジア現代文化研究センター” text_font_size=”18px” text_line_height=”33px”]
基調講演:「軍事クーデターはなぜ起きたのか?」
パネルディスカッション:「ミャンマーの今を考える」
2021年反軍運動は最初にデモを起こしたのはマンダレーという地方都市です。そして、クーデター後、軍が空中に発砲しはじめたのはミャワディという小さな町です。国軍の卑劣な制圧を含めた現地の情報については裕福層やメディアがたくさんいる都市部から流れてくることが多かったため、都市部中心の反軍運動のように映るのかもしれません。しかし、3月中旬以降は国軍によるメディアへの弾圧も強まりました。そして、国軍の弾圧はヤンゴンやマンダレー都心部から郊外の低貧困層へ、さらに地方へと広がっています。(ナンミャケーカイン)
私はミャンマー出身で、仏教徒です。軍人もしくは軍の家族に対するSocial Punishmentという社会的制裁の手段を取るミャンマー人に対して恥ずかしく思っています。「目には目を、歯には歯を」という考えは本来の上座部仏教徒にはなく、「我慢して許す」という精神を訴えることが多いです。今回ばかりは国軍によってあまりにも残虐な行為がSNS上で流れ、それを目にした人々が我慢の限度を超えたため、起こした行為でしょう。そして、このような社会的制裁は許されるべきではないと私も考えていますが、その私自身も正常な社会情勢下の日本に身を置いているからではないかと考えることもあります。(ナンミャケーカイン)
連邦議会代表委員会(CRPH)は任命した副大統領や広報担当者は少数民族です。今ミャンマーで起きていることは、国軍が『産まれ持った生きる権利』を奪い取っているのです。このような基本的な人権侵害はミャンマー人に限らずロヒンギャを含めた少数民族はもちろん、全世界の人々に対する脅威です。この基本的人権侵害の回復が最も重要な課題だと思っています。民主的な政権構築までの道のりはそう平坦ではないと思われ、ビルマ民族と少数民族がその険しい道のりを共に登りつめていくことで民族問題解決への糸口が見つけられるのではないでしょうか。(ナンミャケーカイン)
ミャンマーの軍は「国軍こそ父、国軍こそ母」というスローガンを用いており、そのスローガンにもあるようにミャンマー国民を軍は自分たちの子供のように考えていて、誤算の背景には「軍の自信過剰」が挙げられると思います。親の言うことは絶対的である、という古い概念を軍は持っているのでしょう。しかし、今の時代は子供でも人格のある一人の人間として尊厳を持って接し、子供自身が自由に選択できる権利があると世界は考えています。一方、国軍は言うことを聞かないからという理由で、自分の子供と考える国民に殺害や虐待を続けているのです。(ナンミャケーカイン)
「ODAを一時的停止」というムチと「援助」というアメがあるとすれば、今の日本政府はミャンマー軍にアメを与えてなだめている状況だと理解しています。もちろん、ムチを与えることで事態が改善するかというとそのような確証は誰にも持ち合わせていないと思います。 (ナンミャケーカイン)
→Q22(中西氏)のご回答も合わせてご参照ください。
国際機関を通じての人道的な支援であるため、国軍にお金が直接的に渡ることはないでしょうが、食糧支援を行う際に難民らに支給する食糧を現地で調達しなければなりませんので、その時に軍系事業主から食料を調達された場合は結果的に無償資金協力のお金が軍に渡ることになることも考えられます。または、難民に支給する食糧を保管する倉庫を軍施設もしくは軍関係事業主の施設を利用した場合は、横流しされないという保証もどこにもありません。2008年のサイクロン・ナルギス当時も国外から被災者への物資がうまく届けられなかった事例がありますから今回の難民への食糧支援に関しても懸念されます。(ナンミャケーカイン)
事業判断に関しては個々の事業内容および進出状況次第ですので、一概に言えないのですが、諸先生方のお見通しをご参照されて分かりますように今回の反軍運動は鎮圧が強まると下火になったとしても長期化する可能性が高い私も考えています。(ナンミャケーカイン)
→Q13(後藤氏)のご回答も合わせてご参照ください。
ミャンマーの仏教は上座部仏教なので、本来は政治とはかけ離れた存在です。しかし、実際には政治とも無関係ではありません。ミャンマー最大の仏教集団(通称マハナ)は政府が管理しています。他にもいろいろな仏教集団があり、反イスラムを叫ぶ民族主義的な仏教第一主義集団もあり、彼らは国軍に近いと言われています。また、国軍に批判的な仏教集団もありデモにも参加しています。それ以外にも、政治や社会をから超越した仏教集団もあります。
国軍は仏教徒ビルマ人が中心なので、形式上は仏教に帰依しています。しかし、政府管理の仏教集団マハナは、先日、国軍に批判声明を出しました。今では、国軍と関係を持っているのは、少数の民族主義的な僧侶や仏教第一主義集団だけだと思われます。国軍はそうした彼らを利用して、仏教に帰依している軍というプロパガンダを流しています。(後藤)
国軍に利益になるようなことは一切拒否することが大切です。たとえば、国軍はミャンマー国内に企業をたくさん持っています。日本企業の中には国軍関係の企業と提携している企業があります。
たとえば、有名なのはキリンです。キリンはミャンマー国内でミャンマービールというブランドのビール事業を行なっていますが、その提携相手がミャンマーエコノミックホールディングス(MEHL)という国軍系企業です。キリンはMEHLとの提携を解消すると発表しましたが、まだ解消されていません。また、解消時に、巨額の資金がMEHLに流れる恐れがあるので十分な監視が必要です。
さらに、出資比率はキリン51%、MEHL49%でキリンに再稼働するか否かの決定権を持っているはずなのだが、このような混乱状態の中、「ミャンマー・ブルワリー(MBL)とマンダレー・ブルワリー(MDL)商品をご期待していただいているお客様もいらっしゃる」という理由で生産工場を3月18日に再稼働させ、軍系企業との事業を継続しています。まず、キリンに軍系企業との事業停止と契約解消への全力取り組みをされるよう消費者の日本人の皆様の声をキリンに届けてください。
キリン以外にも国軍系企業と取引している日本企業もあるので、こうした企業への監視も大切です。
また、日本政府も国軍との「太いパイプ」で交渉するといっていますが、交渉で国軍が国民側に譲歩することなど絶対にありえません。逆に「太いパイプ」のせいで日本政府が国軍に譲歩しているように見えます。日本政府への監視も必要だと感じています。(後藤)
ミャンマー国民の中にもいろいろな考え方がいます。私の個人的感覚では国軍の支配を望まない人たちは国民の8割にのぼるではないかと感じています。その8割の中でもいろいろいますが、国軍のあまりのひどさを目の当たりにして、多くの人たちは徹底抗戦を望んでいます。ただ、徹底抗戦と言っても今まで以上に多くの犠牲者を出してもいいと思っているわけではありません。国軍の支配を絶対に認めないという意味です。それを実現するための戦略はこれから変化すると思います。
実際、デモでの死者が増大したため、今はデモが下火になってきています。これからどういう方法で国軍と対抗していくのか私はミャンマーで見守っていきます。(後藤)
①カレン州内での戦闘は今でも続いています。
②カレン州以外でもカチン州やシャン州でも一部戦闘が始まっています。
③今まで国軍と少数民族の戦いに無関心だったビルマ人たちが、少数民族の人たちにシンパシーも持ち始めています。従来は、少数民族軍を反乱軍と言っていたビルマ人が国軍を反乱軍と呼び始めています。巨大な共通の敵「国軍」が姿を現したので、各民族がまとまってきたといえます。
④国民側が勝った場合、全民族の和解への大きなステップになると思います。ただ、そのときには巨大な共通の敵がいない状況なので、全て楽観することはできませんが、今までよりはずっと和解することは容易になると思います。国軍が勝った場合は悪夢です。国軍は恐怖と利権で国を支配しようとするでしょう。一部の国軍に融和的な民族軍には利権を渡すなどをして籠絡し、従わない民族には徹底的に叩いて恐怖を植え付けるでしょう。これは88年以降の軍政時代に国軍が行った方法でもあります。
国軍は憲法を勝手に解釈しています。クーデター自体が憲法違反ですが、彼らの解釈ではクーデターではありません。それに、今は自分たちの都合のいい法律や規定を毎日のように即日発布しています。そういう状況なので、通信の遮断も彼らにとっては何でもないことです。(後藤)
個々の事業継続の可否について私は判断できませんが、全体として見ると、継続は非常に難しいと思います。この先ミャンマーがどうなるか誰も予想できませんが、今の狂った国軍の様子を見ると非常に悲観的になります。たとえ、国軍が恐怖で国民を押さえつけることができたとしても、国民は軍を絶対に許しません。いろいろな方法で軍に対抗していくと考えています。そうした状況で、日本企業は軍と国民の狭間でまともな企業活動ができるとは思えません。国軍が恐怖で国民を押さえつけることができたとしても、ミャンマーが2011年以前の軍政のときのように、ある程度落ち着いた状況になることは絶対にないと思っています。(後藤)
私の個人的意見は、ミャンマーに自由と民主主義が戻ったときに、日本企業は堂々とミャンマーに戻ってきてほしいと思っています。また、早くそうなるように日本企業は国軍側ではなく国民側をサポートすべきだと思っています。特に、国軍側に利益が渡るようなビジネスは即座に中止すべきです。
安全の確保ですが、大使館からのメールにも書いているように、よほどの理由がなければできるだけ早く日本に戻るべきだと思っています。本来は退避勧告を出すべき事態だけど、何らかの政治的理由で発表できないのであのメールの文面になっていると思っています。
また、ミャンマー国内の情報はFacebookにある各メディアから取るようにしてください。それもミャンマー語で書かれたもののほうが早いし情報量も多いです。今は自動翻訳を使うとミャンマー語から日本語翻訳もかなり使えるようになってきました。Mizzima, Irrawaddy, Myanmar Now, BBC Burmese, DVB, RFA などがおすすめです。(後藤)
→Q7(ナンミャケーカイン氏)参照
Q9でも書きましたが、国軍の利益になるようなことは徹底的に反対することです。国際的な反国軍キャンペーンが有効だと思っています。日本企業の中には既に投資した資金を失うことを恐れて、曖昧な態度しか示せない企業があります。特に国軍企業と提携している企業に対しては、強い批判をすることが必要だと思っています。(後藤)
2020年11月の総選挙で当選した議員たちを中心に連邦議会代表委員会(CRPH)が結成されています。オンラインで声明を出し、副大統領や閣僚、大使を任命するといった活動を続けています。彼らは暫定政権のような存在として、市民の抵抗運動のシンボルになりつつあります。また、抵抗運動の中核である若者たちとも連携をしています。(中西)
あると思います。ただ、当時ほど「ものわかりのよい」国民はもういません。約10年間に一定の自由が経験した人々の抵抗はさまざまなかたちで続くでしょう。そうなると、当時の軍事政権よりも不安定な政権になるかもしれません。(中西)
いまのところ対話が成り立つようには見えます。ある国軍寄りのミャンマー人評論家は「抵抗に参加している若者たちはナイーブで真実を知らない」と言っていました。対等な交渉相手として国軍が彼ら/彼女らをみることはないでしょう。(中西)
一部で離反があるようですが、非常に少数です。ミャンマーの歴史をみる限り、クーデター後に軍が割れるということはありませんでした。混乱が続くと、そうした離反者が増えることもありえますが、国軍が大きく割れるという可能性はまだ低いとみています。割れたとしても、内戦に発展する可能性もあり、決して楽観的にはなれません。(中西)
アウンサンスーチーの後継者問題については長く議論がありました。ですが、結局、彼女が有力な後継者を育てることはこれまでありませんでした。NLDの幹部は高齢の長老たちがいるばかりです。そうした長老たちの多くは拘束されています。(中西)
私もそう思います。以前、この点についてエッセイを書きましたので、以下のリンクからご笑覧ください。
https://www.chuko.co.jp/shinsho/portal/116881.html
(中西)
国内の権力闘争がクーデターの原因なので、経済運営については深く考えていなかったのではないか、あるいは、自分たちが統治した方が適切な経済政策が打てると楽観視していたのではないかと推測します。(中西)
最高司令官の影響力が圧倒的に強い国軍と対話をするには、国軍最高司令官に会う必要がありますが、バーグナー特使のような国連関係者は国軍副司令官にしか会えず、国軍最高司令官には会えません。これは国軍と国連との関係悪化の結果です。(中西)
→Q5(ナンミャケーカイン氏)の解答もご参照ください。
国内の権力闘争に対して、外交は基本的に無力だと考えています。2月1日以来、各国政府や国際機関からさまざまな反応がありますが、この2ヶ月の国軍の動きをみると、国際社会がどんなメッセージを送っても、効果がすぐには期待できないことがわかったように思います。ですので、日本が強硬な態度をとろうが、融和的な態度を示そうが、状況が簡単に変わることはないでしょう。日本政府の役割を過大評価しないことが重要です。
現時点で、日本政府は繰り返し3点、民間人への暴力の停止、アウンサンスーチーらの解放、民主的体制の早期回復を求めています。日本政府はもっと強くミャンマー国軍を避難し、対応を強化すべきだという不満もあります。ただ、日本政府からの要請の中身自体はかなり強いものです。特にアウンサンスーチーの解放は国軍が絶対にやりたくないことです。これを条件とする限り、国軍を日本政府が簡単に認めることはないでしょう。
今後については、事態が長期化することを視野に入れる必要があります。国際社会が国軍を強く批判し続けたとして、そのあとに何が起きるのでしょうか。国際介入の可能性は極めて低いですから、国軍が孤立を承知のうえで強硬姿勢を貫いた場合、混乱が続いて最も疲弊するのは市民です。日本に国軍最高司令官とのパイプがあるとするなら、それを活かせるのはそのタイミングかもしれません。もちろん、国軍との対話は、日本の国益だけでなく、ミャンマー市民のためというのが前提になります。(中西)